耳鼻科の代表的な症例

CASE

外耳炎

犬の耳の構造として、まず外貌から確認できる耳のひらひらした部分である耳介(耳殻)が存在します。耳介は音を集める集音装置としての役割があり、耳介で集めた音を外耳道へ伝えます。外耳道とは耳道入口から鼓膜の手前までの耳道のことを指し、鼓膜の奥にはさらに中耳・内耳が存在します。外耳とは耳介および外耳道の総称で、外耳炎とは耳介もしくは外耳道に急性または慢性の炎症が起こっている疾患のことを指します。外耳炎が悪化した場合、鼓膜の奥にある中耳で中耳炎を発症したり、さらに内耳にまで炎症が波及すると内耳炎を発症することも珍しくありません。

外耳炎の主な原因として、細菌や真菌感染・アトピー性皮膚炎・アレルギー性皮膚炎などが挙げられます。特にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーが外耳炎に強い影響があると考えられており、犬アトピー性皮膚炎の約80%で外耳炎の症状が認められ、犬アトピー性皮膚炎の約30%は症状が外耳炎のみという報告もあります。また食物アレルギーを持つ犬の約80%において外耳炎の症状が認められるという報告もあります。

その他に「耳毛や草の実などの異物」・「耳疥癬(耳ダニ)の感染」・「綿棒を用いた誤った耳のケアによる耳道損傷」・「内分泌疾患」・「免疫異常」・「腫瘍」など様々な要因が存在します。多頭飼育の環境下や外出する機会の多い犬や猫では「ミミヒゼンダニ」や「イヌセンコウヒゼンダニ」・「ニキビダニ」といった様々な種類のダニが原因となり外耳炎を発症することがあります。なお梅雨時〜初秋における高温多湿な環境が外耳炎を発症しやすい要因となることがよく知られています。冬は全体的に寒く乾燥していますが、コタツやホットカーペットなどの暖房機器により外耳炎を発症している症例に多く遭遇します。

外耳炎の主な症状として、「耳の痒み」・「痛み」・「耳垢がたまる」・「首を振る」などの症状を認めることが多いです。また激しい痛みを感じるために犬自身が耳を触らせないように攻撃的になることもあります。その他に耳を下にして頭を傾けるようなしぐさをします。あまりにも激しく爪で耳を掻きむしってしまうと、耳血腫などの耳介の病気を発症することも少なくありません。どうしても耳を掻く行為が改善しない場合はエリザベスカラーを装着して耳を保護する必要があります。なお重症化すると、「歩行時にふらつく」・「頭や首が傾く(斜頸)」・「嘔吐」などが認められることもあります。このような症状が確認できた場合は中耳や内耳まで影響が波及している可能性も検討する必要があります。

外耳炎にかかりやすい代表的な犬種として、ミニチュア・ダックスフンドやトイ・プードル、レトリーバー種、アメリカン・コッカー・スパニエルといった耳が垂れている犬種、またトイ・プードルやミニチュア・シュナウザーなどの耳毛が多い犬種が挙げられます。また、スコティッシュ・ホールドやアメリカンカールなどの猫種は折れ耳や特徴的な耳の構造により外耳炎を発症しやすく、難治性になる傾向があります。

外耳炎の症状を診断するために、様々な検査方法があります。耳鏡で外耳道内を観察する「耳鏡検査」、耳鏡検査よりもさらに正確・詳細に外耳道内を観察する「オトスコープ検査」、細菌や真菌などの微生物の存在を確認する「耳垢培養同定試験」、培養同定試験で確認した菌に対して薬剤の感受性や抵抗性を評価する「感受性試験」などがあります。また外耳炎は中耳や内耳など他の部位に症状が波及したり、同時多発的に症状が認められる場合もあります。そのため症例の症状によってはレントゲン検査やCT・MRI検査などの精査を行い、外耳だけではなく周囲の臓器に対しても精査を検討する必要性が出てくることもあります。

外耳炎の治療は一般的に外耳道洗浄や清掃を行い、症状に合わせて点耳薬や内服薬を使用いたします。ただし外耳道において重度の炎症や痛みが認められる場合は洗浄や清掃は行わず、薬剤治療から開始して症状が落ち着いた後に洗浄や清掃を行う場合もあります。なお炎症やかゆみが認められた場合はステロイド、細菌や真菌感染の可能性が高い場合は抗菌剤・抗真菌剤を各症例の症状に合わせて検討し処方いたします。

また耳ダニが確認された場合や生活環境上疑われる場合は耳ダニ対応の駆虫剤を使用いたします。脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎が原因の場合は、外耳炎の原因となっている基礎疾患の治療も同時に進めていきます。耳介や耳道の構造的要因による外耳炎やポリープ・腫瘍が原因となる外耳炎の場合、その根本的な原因除去のために外科治療(耳血腫整復術・耳道腫瘤切除術・外耳道切開術・全耳道切除術)をご提案し、ご家族でご検討いただく場合もあります。

外耳炎に大きく影響する環境要因として

①38〜40度の温度環境
②適度な湿度環境
③通気性の悪い環境

が挙げられます。
この環境を如何に除去するかが治療・予防のポイントとなります。そのため外耳道内をしっかり乾燥させ通気を良くすることが重要です。シャンプー後や水浴び後は十分にご注意いただき、しっかり水気を拭き取ってあげる必要があります。また定期的(週1回程度)な外耳チェックおよび耳掃除を行い、外耳炎になりにくい環境作りについて常日頃から注意していただくことが必要になります。それでも外耳炎を疑う症状が認められた場合はすぐに当院へご相談ください。

猫風邪(猫の上部気道感染症)

猫風邪(猫の上部気道感染症)とは人間の風邪に似た症状の引き起こす「猫ウイルス性(伝染性)鼻気管炎」「猫カリシウイルス感染症」「クラミジア感染症」に関連した病気の総称で、多頭飼育環境(ペットショップなど)で生活経験のある猫や自宅内外の行動が自由な猫・野良猫・保護猫などで頻繁に認められます。本疾患は感染猫のくしゃみや咳・鼻水・流涎(よだれ)などの体液や飛沫物に未感染猫が接触することで感染します。ウイルス性の猫風邪の場合、一度ウイルスに感染すると猫風邪の症状が回復してもウイルス自体が体内より消失することはなく、神経細胞などに身を潜めキャリア状態(ウイルス保有者)となります。そのためキャリア猫の免疫力や体力が衰えた場合、自分自身の免疫でウイルスの動きを封じ込めることができず、猫風邪症状が再発(再燃)するリスクがあります。また免疫が弱く体力があまりない生後3ヶ月迄の子猫は特に猫風邪に感染・発症しやすい傾向があり、症状が重症化すると食欲がなくなり衰弱死してしまうこともあるため注意が必要です。

他に高齢の猫や抗癌剤・免疫抑制剤などを使用している猫など免疫力が低下している猫においては生命に影響するる危険性があります。よって子猫や高齢の猫・持病のある猫が猫風邪に感染・発症した場合は早急の対処が必要になります。成猫の場合は猫風邪が原因で死に至る可能性は極めて低いですが、鼻詰まりで食事が低下し体力が落ちる可能性があります。成猫であっても念のため注意が必要です。

猫風邪の主な症状は咳やくしゃみ・鼻水等の人間の風邪に似た症状の他、症状が悪化すると発熱や食欲低下・脱水などが見られます。原因がカリシウイルス感染症の場合は口腔内に水疱や潰瘍ができて口腔内の痛みにより食欲が落ちることもあります。また多くの症例で結膜や瞬膜の充血・浮腫等の結膜炎症状や角膜混濁・浮腫などの角膜炎症状などの眼科疾患を併発し、流涙や眼全体に膿性眼脂が付着しています。なお子猫で猫風邪が重症化すると、衰弱し肺炎を併発する危険性もあります。早急に当院へ受診していただくことをおすすめします。

猫風邪の治療はウイルス性疾患の場合、主に免疫力を高めるインターフェロンの注射やサプリメントを用います。クラミジアのような細菌性疾患の場合は抗生物質を使用いたします。またそれぞれの症例に合わせて対症療法を選択いたします。例えば脱水が疑われたり食欲不振が認められた場合には皮下点滴もしくは入院による静脈点滴を検討いたします。眼脂や流涙などの結膜・角膜疾患が認められれば点眼薬を処方いたします。猫風邪症状の大部分では一般的な治療にて経過は良好ですが、先ほども述べたとおり子猫や高齢の猫では重症化しやすく生命に影響することもあリますので注意が必要です。

本疾患の予防は定期的な混合ワクチン接種による猫風邪に対する免疫力の強化です。猫の混合ワクチンは生後2か月から接種できます。子猫のうちから決められたワクチンプログラムに則ったワクチン接種を当院ではおすすめしております。また混合ワクチンを接種することにより免疫力を獲得することは猫風邪の治療にも繋がります。当院ではウイルス性の猫風邪に対しては治療の一環で混合ワクチンを接種する場合もあります。

診察中に『完全室内飼育の猫では外猫との接触がないから猫風邪に感染する可能性はないのでワクチンを打たなくて良いのでは?』や『猫風邪の症状が出ていないのでワクチンを接種しなくて良いのでは?』とご質問を頂くことがあります。猫風邪はウイルスや細菌などが関与した感染性疾患です。特に感染猫が身近にいる環境や多頭飼育の環境下(幼少時に野良猫生活をしていた、ペットショップで購入したなど)で感染し、将来に渡って猫風邪のキャリア猫になります。定期的に混合ワクチンを接種し猫風邪に対しての免疫力をしっかりつけておかないと、体調を崩して免疫力・体力が消耗した時に猫風邪症状が再発(再燃)する可能性があります。よって外出しない猫や猫風邪症状が認めれない猫でも定期的に混合ワクチンを接種し免疫力をつけておく必要があります。