猫の予防医療
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ノミ・マダニ対策
ノミやマダニは節足動物に分類されますが、厳密にはノミは昆虫の一種であり、マダニは昆虫ではなくクモやサソリの一種になります。ノミやマダニは犬猫に寄生し吸血します。ノミの中でも日本で多いのはネコノミで、その大きさは吸血前が1.5㎜、吸血後には3㎜程度と肉眼でも見えるくらいの大きさになります。ノミは2週間程度で卵から孵化し爆発的に増殖します。また、ノミに咬まれることでその唾液に反応して、ノミアレルギー性皮膚炎を引き起こしてしまうことがあります。
ノミが付着した場合、ノミの糞が体表に発見されることがあります。いわゆるノミ糞は黒い粒々した形をしていて、被毛の根元に多く見られます。ノミが吸血した血液が混じっているため、濡らしたティッシュなどにのせると赤くなるのが特徴です。ノミが見当たらなくても、ペットの身体にノミ糞がついていたり周囲に落ちていた場合は念のため駆虫しておいた方が安心でしょう。マダニの中で代表的なものはフタトゲチマダニで、吸血前は3㎜程度ですが、吸血後には1㎝程のしこりのようになります。
もともとマダニは草むらにいるため、ペットが雑草に触れやすい目元や口元、耳回りや足回りに付着しているところを診察中に発見する機会が多いです。ダニを発見した場合の注意点として、もしマダニを発見した場合は絶対に手やピンセットでつまんで不用意に取ろうとはしないでください。無理にとることで出血したり、マダニの頭が皮膚の中に残ってしまい、炎症や化膿を起こすことがあります。また、マダニはバベシア症やヘモプラズマ症などの別に寄生虫を感染させる媒介動物としても知られています。これらの病気は感染すると重度の貧血に陥るため非常に危険です。
ノミ、マダニから人に感染する病気もあります。人獣共通感染症といわれており、バベシア症やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)、瓜実条虫(サナダムシ)など様々な病気があります。またノミに咬まれるとアレルギー性皮膚炎を起こし激しい痒みや赤い湿疹が出来てしまいます。飼主様やそのご家族の健康を守るという意味でもペットのノミ、マダニ予防は重要といえます。
ノミ、マダニは駆虫薬で予防することが可能です。駆虫薬には主に2つのタイプがあります。
・1つ目は皮膚に滴下するスポットタイプ型の駆虫薬です。1か月に一度、予防薬の種類によっては3か月に一度の投薬で予防が可能です。駆虫薬の種類によっては同時にフィラリア(犬糸状虫)や腸内の寄生虫も駆除できるものがあります。
・2つ目にチュアブルタイプの内服型駆虫薬があります。おやつ感覚で投与することが可能で、比較的美味しく作られています。フィラリア症や腸内の他の寄生虫まで幅広く予防できるタイプや、予防効果が3ヶ月持続するタイプもあります。
ホームセンターやインターネットなどに市販されている駆虫薬もありますが、病院で販売しているものと比べて効果が低いものが多いためお勧めできません。ノミ・ダニを駆虫する場合は確実に駆虫することが重要です。中途半端な駆虫は全く意味がありません。駆虫薬にはそれぞれメリット・デメリットなど特徴があり、費用や予防範囲・効果の持続期間も様々ですので、お悩みの際はお気軽に担当獣医師までご相談ください。
混合ワクチン接種
4ヶ月齢くらいまでに最優先となるヘルスケアが2つあります。1つはワクチン接種による感染症予防で、もう1つは猫が家庭および社会の中で快適に生活するために重要なトイレのしつけ、社会化、栄養指導、運動指導になります。
社会化とは、家族以外の人間や動物、環境中の様々な騒音や刺激、車に乗ること、キャリーバッグに入ることなどに慣れさせることをさします。猫ちゃんが様々な刺激から受けるストレスを最小限にし、ほかの人や動物に迷惑をかけることなく、愛されて生きていけるようにするために重要なプロセスでもあります。また、病院に行くストレスを減らし、院内でも大人しく診察を受けられるようにする目的もあります。社会化させていく上でも他の猫と触れ合うことによる感染リスクが出てくるためワクチン接種が必要になってきます。
基本的にワクチンは1回の接種で免疫が獲得できるように設計されていますが、初年度は母体由来の移行抗体によるワクチンへの干渉が考えられるため、免疫が安定しないことがあります。そのため、初めてのワクチン接種の場合は4週間おきに複数回接種を行い免疫を十分に獲得させる必要があります。
猫ちゃんが現在ワクチンにて予防できる病気は「猫ウイルス性(伝染性)鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス)」「猫カリシウイルス感染症」「猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス)「猫クラミジア感染症」「猫白血病ウイルス感染症」「猫エイズウイルス感染症」の6種類です。
猫ウイルス性(伝染性)鼻気管炎
猫ウイルス性(伝染性)鼻気管炎は猫ヘルペスウイルスによる感染症です。主な感染ルートはキャリア猫(ウイルスに感染している猫)との接触及び飛沫感染です。病気や体調の悪化などにより鼻や口の粘膜から感染します。なお、この病気に一度感染すると「ウイルスキャリア」となり、基本的にヘルペスウイルスが生涯にわたって体内に残ります。そのため免疫力に問題がなければ特に症状が出る事はありませんが、悪性腫瘍や免疫介在製疾患などの病気や高齢・若齢により免疫力が低下しているときには症状を発症したり、発症の有無に関わらずキャリア猫として周辺の猫ちゃんに病気をうつしてしまう可能性があります。
この猫ウイルス性鼻気管炎は病気に感染している猫ちゃんが非常に多く、激しいくしゃみや咳、鼻炎、発熱などの風邪のような症状のほか、角膜炎や結膜炎などの眼科疾患が認められる場合も多々あります。また他の呼吸器疾患との併発を多く、細菌感染による二次性の肺炎を続発してしまうこともあります。特に子猫では免疫力が弱いため症状が重症化することもあり、最悪の場合は死に至る非常に怖い病気です。
猫カリシウイルス感染症
猫カリシウイルス感染症は猫カリシウイルスによる感染症です。はじめはくしゃみや鼻水、発熱など風邪に似た症状がみられますが、症状が進行すると舌や口の周囲に水泡や潰瘍がみられるのが特徴です。また、他の病気と混合感染することにより合併症を引き起こし、症状が重症化することがあります。猫カリシウイルス感染症もキャリア猫から感染します。
猫汎白血球減少症
猫汎白血球減少症は猫パルボウイルスによる感染症です。血液中の白血球が極端に少なくなる感染症で、免疫力低下による元気消失や食欲不振、発熱、嘔吐、下痢、脱水症状がみられます。症状の進行が早く、特に子猫では死亡率が非常に高い病気です。主な感染ルートは感染猫の嘔吐物や下痢などに直接接触するパターンと嘔吐物や下痢に触れたものを介して二次的に触れるパターンと様々あります。特に猫パルボウイルスは非常に強いウイルスの為、特定の消毒薬を用いないと死滅させることができません。自然界では数ヶ月生存できるとも言われています。人間を介して感染する事例も多いため注意が必要です。
猫クラミジア感染症
猫クラミジア感染症はクラミジアという細菌が原因となる感染症で、猫ウイルス性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症と並び「猫風邪」という総称で括られる病気の代表的な原因となります。主な症状はくしゃみや咳で、他の猫風邪と同様眼科疾患(結膜炎や角膜炎など)も認められます。
猫白血病ウイルス感染症
猫白血病ウイルス感染症は猫白血病ウイルス(FeLV)によって引き起こされる病気で、致死率の高い非常に恐ろしい病気です。特に幼少期に感染すると、ほとんどの猫ちゃんが1歳の誕生日を迎えることができずに亡くなると言われています。また1歳を超えた猫ちゃんでも重度の血液疾患や悪性腫瘍・免疫疾患に罹患する可能性が非常に高く、治療も困難を極めることが多く、厳しい予後が待ち受けています。
この病気はキャリア猫の唾液・鼻汁・血液などの体液を介して感染するため、接触感染や飛沫感染・咬傷事故などにより感染が成立します。なお本疾患は院内でも血液検査を行うことで感染の有無を調べることができます。なお猫白血病ウイルスには潜伏期間があります。猫白血病ウイルス感染症の感染の有無がご心配の場合は当院獣医師までご相談ください。
猫免疫不全(エイズ)ウイルス感染症
猫免疫不全(エイズ)ウイルス感染症は猫免疫不全ウイルス(FIV)が原因のウイルス感染症です。猫白血病ウイルス感染症とともに猫ちゃんのウイルス感染症の中で非常に恐れられている病気の一つですが、猫白血病ウイルス感染症と比べて致死率は低く、体調管理に十分に注意してストレスの回避など免疫力の低下を引き起こさなければ発症を抑えることができる可能性があります。場合によっては寿命を全う出来る可能性も十分期待できます。ただし猫免疫不全ウイルス感染により生命に影響する可能性がありますので、感染の回避は重要です。
猫免疫不全ウイルス感染症は主に咬傷などの喧嘩による感染が主になります。また唾液などの体液などの接触・飛沫感染、母子感染なども感染ルートとして考えられていますが、猫白血病ウイルスと比べると咬傷事故からの感染が圧倒的に多いと報告されています。なお本疾患も猫白血病ウイルス感染症と同様に院内の血液検査にて感染の有無を調べることが可能です。ただし猫白血病ウイルス感染症と同様に潜伏期間がありますので、当院獣医師に検査のタイミング等はご相談ください。
当院では「3種混合ワクチン(猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症)」「5種混合ワクチン(3種混合ワクチン+猫クラミジア感染症・猫白血病ウイルス感染症)」「猫免疫不全ウイルス感染症予防ワクチン」の3種類を取り扱っています(2021年8月現在、5種混合ワクチンは国内流通が不安定になっており取扱停止しております。ご希望の場合は事前にお電話にてお問い合わせください)。基本的には室内外の猫ちゃんには3種混合ワクチン、屋外に出る猫ちゃんは3種混合ワクチンもしくは5種混合ワクチンをご提案しております。また猫免疫不全ウイルス感染症ワクチンにつきましては飼主様のご希望により適宜ご説明させていただいております。
ワクチンに関しましてはワクチンを接種する時点での基礎疾患や体調・年齢・性格・生活環境などを加味して判断する必要があります。診察中に飼主様のご希望やお考えをお伺いした上で最適なワクチンをご提案いたしますのでお気軽にご相談ください。
避妊・去勢手術
基本的な当院の考え方として最初にお伝えしておきたいことは、当院では避妊手術・去勢手術は積極的に推進しておりません。ただし勘違いしていただくと困りますが、院長である私に対して「去勢手術・避妊手術を行った方が良いか」と問われれば答えは「はい」となります。「積極的に推進していない」という意味は「去勢手術・避妊手術を飼主様が消極的であれば、無理に方針転換を図ることはない」という意味です。
動物病院によっては「去勢手術・避妊手術は必須」と言わんばかりに半ば当然のように予定を組み込む病院もあるみたいです。去勢手術や避妊手術を行うことによるメリットは多々ありますが、逆に少なからずデメリットもあります。当院では飼主様に対して手術によるメリット・デメリットをしっかりご理解いただいた上で、ご家族全員の総意で判断していただければと考えています。
その為に必要な情報提供や当院獣医師の考えは惜しみなくご提供させていただきます。何度ご相談に受診して頂いても構いません。当院における過去の傾向として比較的去勢手術に対してはご主人(男性)が、避妊手術に関しましては奥様(女性)が否定的に考えられるご家族が見かけられます。
手術を実施する獣医師の立場としては基本的にご不安を感じられているご家族に受診をお勧めいたします。ご不安な点を当院獣医師に全てお伝えいただき、不安点を解消してください。そして最終的にご家族で判断していただければ大丈夫です。手術を実施しないという判断でもご家族の皆様がご納得して決断していただければ、当院としては全く問題ありません。
下記に去勢手術・避妊手術を行うことによるメリット・デメリットを簡単に掲載いたします。詳しくは当院獣医師まで診察時にご相談ください。ご相談時にはさらに詳細にご説明し、下記掲載内容以外の情報提供もできればと思います。また個別にご相談に乗ることにより、飼主様ご家族に合わせたオーダーメイドの対応を実施させていただきます。お気軽にご相談ください。
去勢手術・避妊手術を実施することによるメリット
・望まれない妊娠を防ぐことができる
・性ホルモンによる体調不良から解消される(発情によるホルモンバランスの不調など)
・性ホルモンによる精神的な不安定性から解消される
・攻撃性が低下する可能性がある(特に雄猫の場合)
・問題行動(マーキング・スプレー行動・落ち着きがないなど)が改善する可能性がある
・性ホルモン関連性の病気にならないorなりにくくなる
去勢手術・避妊手術を実施することによるデメリット
・手術における麻酔リスク
・手術実施以降は子孫を残すことができなくなる
・肥満になりやすい
・身体全体のホルモンバランスが乱れて不調をきたす可能性が否定できない
・肥満などから二次的に病気になる可能性がある
猫の健康診断
春は多くの飼主様も自身の健康診断を受けられる季節かと思います。毎年健康診断を受けることで、現在自分の健康状態がどのような状況か確認して安心したり、異常を早期に発見し治療につなげられているかと思います。同じことがペットにも当てはまります。
軽度の内臓機能障害(心機能低下・肝障害・腎障害など)は基本的に無症状であったり、症状が出ていても飼主様が気づかないことがよくあります。そのような場合に健康診断を定期的に実施していると日々の健康を見守るバロメーターになります。大切な家族が元気に長生きできるよう、ここでは健康診断の必要性や具体的な内容についてお話いたします。
「うちの子は健康だから」「うちの子はまだ若いから」健康診断は必要ない、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし獣医師としては、健康なときにこそ検査をお勧めしております。 その理由として、私たち人間も平熱や血圧には個体差があるように、ペットにも様々な検査の数値には個体差があります。特に血液検査には「正常値」という数値が設定されていますが、必ず正常値に入らないといけない訳ではありません。特に肝臓や腎臓の数値に関しては個体差があります。各個体の正常値を健康な時に定期的に調べておくと実際病気になった時に非常に有用になります。
一般的な検査内容としては、人間の健康診断をイメージしていただければ良いかと思います。まずは血液検査を行っていきますが、他に何の検査を受けるかは、猫ちゃんの年齢や健康状態、飼主様の希望によっても変わってきます。当院で実施する健康診断には血液検査(一般生化学検査・内分泌検査など)・X線検査・超音波検査・尿検査・糞便検査・眼科検査などがございます。飼主様のご希望・ご要望に合わせてオーダメイドのプランを組み立てていきます。診察時にお気軽に担当獣医師までご相談ください。
一つの目安としては持病のない健康な子であれば、5歳頃までは少なくとも1年に1回、5歳から8歳までは飼主様のご希望により年1〜2回程度、シニア期と言われる8歳以降は年2回実施することが望ましいと考えております。また当院ではワンちゃんのフィラリア予防の時期に合わせて、猫ちゃんでも通常の院内検査よりもお得な料金で血液検査を行える健診プランも取り揃えております。多くの飼主様から大変ご好評いただいております。是非ご検討ください。