内分泌科の代表的な症例

CASE

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)

クッシング症候群とは、副腎で産生される副腎皮質ホルモンの過剰分泌によって引き起こされる症状の総称を指します。クッシング症候群には「脳下垂体の過形成や腫瘍」および「副腎皮質にできた腫瘍」のいずれかの原因によって、コルチゾルと呼ばれる副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることで起こります(自然発生クッシング症候群)。このほかにアトピー性皮膚炎などの症状を抑えるために長期間あるいは大量のステロイド剤を使用した場合に、その副作用としてクッシング症候群を引き起こすことがあります(医原性クッシング症候群)。
自然発生クッシング症候群では脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が必要以上に大量に分泌され副腎を活性化したり、副腎腫瘍により副腎が暴走して副腎皮質ホルモンを大量に産生したり、いわゆる副腎の「機能亢進」状態になっています。しかし、医原性クッシング症候群ではステロイド剤の影響で体内の副腎皮質ホルモンは増えている状態ですが、実際はステロイド剤による影響で副腎は萎縮しており、副腎の機能は低下しています。
クッシング症候群は主に6歳以上の犬で診断する機会が多く、猫での発生は非常に稀です。犬種を問わず発症しますが、とくにダックスフンド、トイ・プードル、ポメラニアン、ボストン・テリア、ビーグルなどに発症しやすい傾向があります。

クッシング症候群の主な症状は「多飲多尿」・「多食」・「体重減少」・「左右対称性の脱毛」・「腹囲膨満」・「皮膚の菲薄化」・「色素沈着」・「皮膚表面などの石灰化」などの症状も見られるようになります。また、避妊していない場合は発情が止まったりすることがあります。病気が進行してくると、免疫力が低下するため、様々な感染症(皮膚炎、膀胱炎など)にもなりやすくなります。

診断は主に血液検査(ホルモン検査)や腹部超音波検査で行い、必要に応じて腹部X線検査や尿検査・CT検査・MRI検査も実施します。当院では主に血液検査と腹部超音波検査にて診断を行います。
血液検査では、特殊な薬剤を接種して診断する「ACTH負荷試験」を当院では実施しています。この検査は特殊薬剤接種前と接種1時間後の副腎皮質ホルモン(コルチゾル)の数値を測定して診断します。なお、当院ではACTH負荷試験を行うにあたり4〜5時間程お預かりすることになりますが、ACTH負荷試験と同時に腹部超音波検査も実施します。腹部超音波検査では左右の副腎腫大(副腎腫瘍)を評価します。またクッシング症候群の症例では肝臓腫大なども認められますので、同時に腹部全体の評価を行います。
なお当院では検査室内にホルモン測定機器がございますので、お迎えで来院していただいたときには血液検査の結果と腹部超音波検査の結果をご説明し、必要に応じて当日より治療を実施します。また、ACTH刺激試験にて診断が困難な場合はCRH負荷試験や低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)、高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)といった特殊な検査も検討していきます。

クッシング症候群の治療は原因により異なります。
「脳下垂体の過形成や腫瘍」が原因の場合、最終的にはMRIにて確定診断します。通常は投薬治療にて経過を観察する症例が多いですが、MRI検査の検査内容によっては脳外科手術にて下垂体を切除し原因除去を図ることもあります。非常にリスクのある手術で、執刀できる外科医が在籍している施設にも限りがあり一般的な治療法とまでは現在言えませんが、徐々に実施件数は増えています。また放射線療法にて下垂体に放射線を照射し、下垂体腫瘍の減容積を目指すこともあります。
「副腎腫瘍」が原因の場合、通常はホルモン検査と腹部超音波検査にて診断が可能です。腹部超音波検査にて副腎腫瘍を確定した後は腹部CT検査にて副腎腫瘍の位置と周囲臓器への癒着具合を確認した上で手術リスクを評価します。ただし副腎腫瘍摘出も非常に難易度・リスクが高く、手術を執刀できる外科医が在籍している施設には限りがあります。
「医原性クッシング症候群」の場合、原因となるステロイド剤を徐々に減量していきます。ただし副腎自体の機能は低下している為、必要以上にステロイドを減量すると「副腎皮質機能低下症」を発症します。減量は慎重に行う必要があります。
当院では基本的にクッシング症候群に対する外科対応が困難な為、内科治療にて経過観察を行います。外科治療が必要な症例に関しましては手術執刀経験数の多い外科医が在籍している2次診療施設をご紹介しております。

最もクッシング症候群で顕著に認められる症状は「多飲多尿」です。クッシング症候群を発症している症例の約90%近くは症状として認められますので重要な症状と言えます。ただし多飲多尿は腎不全や糖尿病・子宮蓄膿症・薬剤による副作用など様々な原因がございます。
またクッシング症候群は「免疫力の低下」や「筋力の低下」など全身的な体調変化に影響します。糖尿病や肝臓障害・急性膵炎・皮膚疾患・筋骨格系疾患などの基礎疾患になる可能性が高く、非常に恐い病気です。定期的な血液検査(生化学検査)による健康診断でもクッシング症候群の可能性を判断することは可能です。当院では生化学検査の結果、クッシング症候群を疑いホルモン検査をして診断する場合が非常に多いです。日頃より定期的な血液検査による健康診断を行い大切な家族の健康管理に努めましょう。当院はクッシング症候群の治療実績は非常に多く、常に治療法のアップデートを行っております。クッシング症候群に関しましてご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

糖尿病

糖尿病とはインスリンに関する何らかの問題により、血液中の糖を細胞内にうまく取り込めなくなり高血糖や尿糖が持続的に認められる病気です。糖尿病には「①インスリンの分泌量が少なくなる」・「②肥満や基礎疾患が原因でインスリンの効きが悪くなる」・「③妊娠中に分泌されるホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなる」など、大きく3つの要因が報告されています。①は「インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)」と呼ばれており、①が原因の場合はインスリン製剤による治療によく反応します。②は「インスリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)」と呼ばれており、②が原因の場合はインスリン製剤による治療の他に原因疾患の治療が非常に重要になります。原因疾患には「クッシング症候群」・「慢性膵炎」・「甲状腺機能低下症」・「ステロイドなどの薬剤」・「腎不全」などがあり、原因疾患の治療が糖尿病管理の鍵を握ります。③は「妊娠糖尿病」と呼ばれており、③が原因の場合は避妊手術を行うことにより糖尿病から脱却できる可能性もあります。
犬で比較的多いと言われている「①インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)」の原因はよくわかっていませんが、遺伝的要因や肥満、感染、膵炎など、複数の要因が重なりあって起こっていると考えられています。猫でよく認められる「②インスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)」は肥満やストレス・運動不足といった環境要因や、膵炎やその他全ての疾患が誘因になっていると考えられています。

糖尿病の主な症状は「多飲」・「多尿」・「多食」・「体重減少」です。「多食」ですが「体重減少」が認められます。糖尿病ではインスリンのトラブルにより栄養素が細胞に取り込むことができず、どんなに食べても栄養不良に陥り急激に痩せていきます。また糖尿病の症状がさらに悪化すると、血液中にケトン体という有害な物質が増加して「糖尿病性ケトアシドーシス」という状態になります。糖尿病性ケトアシドーシスは内科疾患の中でも生命に影響する重篤疾患の一つとして知られており、集中的な入院管理を行っても命を落とす可能性があります。
糖尿病を基礎疾患として合併症を発症することもあります。犬の場合、急性に進行する白内障や慢性的な細菌感染による皮膚炎、膀胱炎などです。雌犬では子宮蓄膿症を起こすこともあります。また猫の場合、白内障や糖尿病による失明の報告は少ない傾向があります。糖尿病性ケトアシドーシスにまで症状が進行した場合、運動失調や虚脱といった神経症状が認められる機会が多いです。
好発犬種としてよく知られているのはトイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、ビーグルなどで、特に中年齢以降の肥満犬での発症が目立ちます。猫では5歳以上の肥満の去勢雄に発症が多い傾向がありますが、好発品種は特にありません。

糖尿病の診断は比較的単純で、主に「血液検査」と「尿検査」になります。ただし血糖値は糖尿病以外にもストレスや薬剤・基礎疾患による影響でも高血糖になりますので診断には注意が必要です。その為、当院では血液検査で血糖値の他に主に「糖化アルブミン」や「フルクトサミン」という項目をみていきます。尿検査では主に「尿糖」や「ケトン体」の有無を確認していきます。

糖尿病の治療として、ごく初期であれば食事と運動管理による治療法を検討します。ただし動物においては比較的症状が進行してから診断する機会が多いので、通常はインスリン治療を選択します。犬の場合はインスリン注射を生涯にわたって続ける必要があります。しかし猫ではインスリン分泌能が残っていることもあり、極稀にインスリン治療から脱却できることがあります。
インスリン製剤には効果の発現から持続時間により様々な種類が存在します。犬では主に「中間型インスリン」、猫では「持効型溶解インスリン」を当院では選択する機会が多いです。また糖尿病性ケトアシドーシスの場合は「超速効型インスリン」を使用いたします。実際当院で糖尿病の治療を行う場合、インスリン製剤の種類や投与量の決定は症状・食事内容・体調・体重・基礎疾患の有無などを勘案しながら、入院して2時間おきに血糖値を測定し血糖値曲線(グルコースカーブ)を描きながら判断いたします。さらにインスリン治療の効果を高めるため、肥満の改善・避妊手術・感染症や基礎疾患の治療も同時に行っていきます。適切な食事の回数や内容を考慮した食事療法や、適度な運動をおこなう必要もあります。
糖尿病性ケトアシドーシスを発症している場合、生命に影響する場合が多いため入院治療が必要となります。ほとんどの場合、重度の脱水を伴っていますので急速輸液による脱水の改善と超速効型インスリンによる血糖値の改善およびブドウ糖液とインスリン製剤併用による点滴治療により糖尿病性ケトアシドーシスからの脱却を図ります。

近年では血糖値を測定できる簡易血糖測定器を装着させて、通院しながらご自宅でも血糖調整が出来る場合もあります。糖尿病の予防は適度な食事と運動を心がけ、肥満にならないように日常生活に注意することがとても大切です。また糖尿病を発症した場合は生涯にわたり治療を継続していくことになります。糖尿病の継続治療は定期的な通院による血糖値や糖化アルブミンによるチェックが重要になります。特に「低血糖」が最も重要なインスリン治療における副作用であり、低血糖は直接的に生命に影響を与えます。低血糖を起こさず適切な血糖値に長時間維持することが糖尿病コントロールの一番のポイントです。当院では多くの糖尿病管理を行っており、常に糖尿病管理に関するアップデートを行っています。糖尿病に関するご質問・ご相談などございましたらお気軽に当院までお問い合わせください。

犬の甲状腺機能低下症

甲状腺とは食べ物に含まれるヨウ素を原材料に甲状腺ホルモンを作り出す器官です。甲状腺ホルモンは身体の発育を促進し新陳代謝を活性化するホルモンで、身体の恒常性を維持するために必要なホルモンの一つです。甲状腺機能低下症とは甲状腺に機能的・構造的な問題が発生し、甲状腺ホルモンの分泌量が低下した病気です。中高齢の中型犬・大型犬で診断される機会が多く、猫で診断されることはほぼありません。ただし最近では若い小型犬でも診断されることが増えてきています。

甲状腺機能低下症の原因として、主に免疫介在性のリンパ球性甲状腺炎と、特発性甲状腺萎縮によって引き起こされるといわれています。この病気の一部には遺伝的要因の関与も考えられています。また、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などの他の病気が甲状腺ホルモンのはたらきを阻害し、同様の症状を引き起こすこともあります。

甲状腺機能低下症を発症すると、一般的には皮膚症状や神経症状などの症状が認められるほかに、「元気がなくなる」・「すぐ疲れる」・「動きたがらない」・「体重が増える(肥満傾向)」といった症状が認められます。皮膚の症状としては、「毛が薄くなる(薄毛)」・「毛が抜ける(脱毛)」・「皮膚が乾燥してフケが多くなる」・「皮膚が黒ずむ(色素沈着)」・「皮膚が厚くなる(皮膚の肥厚)」・「細菌感染を繰り返して起こす(膿皮症)」などが認められます。また、全般的に犬の顔が哀しそうに見えてくることもあります(悲劇的顔貌)。この他、心拍数が遅くなったり、発情が止まったりといった症状が見られることもあります。重篤になると、昏睡に陥ったり、意識障害を起こしたりする場合もあります。好発犬種はゴールデン・レトリーバー、シェルティ(シェットランド・シープドッグ)、柴犬、ダックス、ドーベルマン、ミニチュア・シュナウザー、プードル、ボクサーなどの中・大型犬に多く見られていましたが、最近では小型犬で診断する機会が増えてきており、小型犬でも注意が必要です。

甲状腺機能低下症の主な診断方法は血液検査およびホルモン検査による甲状腺ホルモン(T4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定です。また頸部超音波検査にて甲状腺のチェックも必要に応じて行います。

甲状腺機能低下症の治療は体内で生産出来なくなった分の甲状腺ホルモンを内服薬で補っていきます。基本的に甲状腺機能低下症の治療は一生涯続けなくてはいけません。ただし適切な量の甲状腺ホルモンを投与すると甲状腺機能低下症で認められた食欲や元気・皮膚病症状などが改善します。ただし甲状腺ホルモンを必要以上に内服すると甲状腺機能亢進症を発症してしまいます。甲状腺機能亢進症は「呼吸促迫」・「性格に攻撃性が出てくる」・「多飲多尿」・「食欲旺盛」・「体重減少」などが認められます。そのため甲状腺ホルモン投与開始時は少なくても1ヶ月に1度、甲状腺ホルモンの血中濃度が落ち着いてきたら3ヶ月に1回程度は定期的に甲状腺ホルモン(T4)を測定し、適切な量でのコントロールに努めていきます。

甲状腺機能低下症には予防法はありません。定期的な体調管理が重要になります。一般身体検査にて甲状腺機能低下症の可能性がある場合、当院では血液生化学検査およびホルモン検査を推奨しています。ちなみに当院の検査室にはホルモン測定機器が導入されていますので約30分後には結果を提示し、当日治療内容を検討していきます。甲状腺機能低下症に関するご質問等ございましたら、お気軽にご相談下さい。

猫の甲状腺機能亢進症

甲状腺とは食べ物に含まれるヨウ素を原材料に甲状腺ホルモンを作り出す器官です。甲状腺ホルモンは身体の発育を促進し新陳代謝を活性化するホルモンで、身体の恒常性を維持するために必要なホルモンの一つです。甲状腺機能亢進症とは甲状腺に機能的・構造的な問題が発生し、甲状腺ホルモンの分泌量が増加した病気です。中高齢の猫で診断される機会が多く、犬で診断されることは非常に少ない傾向があります。
甲状腺機能亢進症は甲状腺の腺腫様過形成が片側ないし両側の甲状腺で生じる結果、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうことが原因と言われていますが、詳しい発症原因はわかっていません。また、極稀に甲状腺腫瘍によって発症する場合もあります。

甲状腺機能亢進症の主な症状は「動きが活発になる」・「食欲が増す」・「多飲多尿」・「嘔吐」・「下痢」など病気というよりむしろ元気と錯覚するような様子が認められることが多いです。また甲状腺機能亢進症の症例は落ち着きがなくなったり、ときに攻撃的な性格になることもあります。しかし「体重減少」・「毛づやも消失」・「多飲多尿」といった病的な症状が見られることもあります。さらには嘔吐や下痢をすることもあります。そして病態が進行してくると、今度は逆に食欲や活動性が低下してきます。8歳以上の中~高年齢の猫に発症することが多く、この病気は心臓をはじめ、肝臓などの臓器にも影響を及ぼします。

甲状腺機能亢進症の治療法には、内科療法と外科療法があります。内科療法では、甲状腺の機能を抑える抗甲状腺薬剤を投与する方法が一般的です。外科療法では、腫大した甲状腺を切除していきます。

甲状腺機能亢進症には、有効な予防方法はありません。中~高年齢の猫に上記の臨床症状がみられた場合は受診しましょう。甲状腺機能亢進症に関するご質問・ご相談がございましたらお気軽に当院までご連絡ください。